第九話 みなみは大切なものをなくした

 今回のお話しには、ドラッカーの言葉の引用もマネジメントについての議論や葛藤もなかったので、お話しから何かを引き出すことはできませんね。おそらく、最終回も同じような感じになると思うので、今回はこれまでのまとめ、そして最終回は総括という感じにしようと思います。

 第一話は「リーダーの真摯さ」「事業の定義」「顧客は誰か」というマネジメントの根幹をなす重要な提起が取り上げられていました。その上でドラッカーの『顧客』という言葉について解説しました。

 第二話のテーマは『マーケティング』でした。前日に解説した『顧客』に対して、なにを望んでいるかを直接問うことが大切で、答えを想像するべきではない、ということが肝要です。

 第三話は人の『強みを生かす』ことについて解説しました。サブタイトルは「みなみは人の強みを生かそうとした」だったのですが、お話しの内容としてはあまり『強みを生かす』という展開になっていなかったので、前日の「私とドラッカー」から上田先生の言葉を引用して、解説しました。

 第四話のテーマは『イノベーション』。イノベーションのための「七つの機会」と、「リスク指向」になってはいけないということを解説しました。

 第五話のお話しは、試合の中で野球部員のみんなの成長がみられたので、その過程で実施されているはずの『フィードバック分析』について解説しました。

 第六話では、みなみが新入部員を程高野球部の理念にミッションや理念に照らしあわせて選抜している点に着目して、組織の理念と個人の信条が一致することの重要性について書きました。

 第七話は、お話しの中で、みなみと夕紀が結果とプロセスのどちらが大切かということを語り合っていたので、その二つは見方が違うだけで、『成果』という考え方では両方必要なことであることを解説しました。

 第八話は、『組織の短期的な成果と長期的な成長』という難しい問題について、程高野球部の状況にドラッカーの考え方を適用して、具体的な解決法を述べてみました。

第八話 みなみはマネジメントのあるべき姿を考えた。

 今日のテーマは『組織の短期的な成果と長期的な成長』について、といえるでしょう。

 『明日を支配するもの』の中でドラッカーは「長期のためか短期のためかは価値観にかかわる問題である。……中略……実際にマネジメントを行なっている者は、そう簡単ではないことを知っている。……中略……それは、企業の役割とマネジメントの責任という価値観にかかわる問題である。」といってます。これはとても難しく、かつ重要な問題だということですね。

 お話しの中では、文乃が「組織は弱みを消して強みを生かすものです。」と言って祐之助を外すことに賛同していましたが、これはドラッカーのいっていることに反します。ドラッカーは様々な著書の中で、強みを生かせというと共に、弱みに着目した人事はすべきではない、ともいっています*1。それに対して、みなみは自分の中で確たる根拠はないながらも「たとえ負けることになったとしても、祐之助君の成長を信じて試合に出すことが、マネジメントのすることだと、私は思う。」と強くいっています。この、みなみの迷いと決断は、マネジメントにとってこの問題が難しいものであり、かつマネジメントの真価を問われる問題であるということを表しているのだと思います。

 しかし、この難しい判断もドラッカーの言葉が身についていれば、それほど難しい問題ではなくなります。上述の文乃の言葉を正しく解釈して、強みを組み合わせた組織を作れば良いのです。例えば、準決勝で祐之助のミスをカバーするファインプレーをした田村君は、一年生ながらレギュラー入りした才能ある選手です。準決勝の時のように咄嗟の判断でカバー出来るのであれば、あらかじめ祐之助の性格を把握していれば、より確実にカバー出来るはずです。そして、祐之助の波に乗っている時は良いプレーをするという強みを引き出すことを考える*2。このように、個人個人の強みにのみ着目すれば、難しい判断ではなく、前向きな課題になります。そして、課題が明確になれば解決は決して難しくないはずです。

明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命

明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命

*1:これは、みなみの意見を際立せるために『もしドラ』の作者が敢えて間違った意見をいわせたのかもしれません。

*2:第七話で浅野君のピンチを救った歌や、朽木君のカウントのように、なにか良い方策があるはずです。

第七話 みなみは成果について考えた。

 今回のテーマは『成果』ですね。お話しの中で成果について、みなみと夕紀の間で意見の対立がありました。しかし、二人が言っていることはどちらも正しいと思います。

 夕紀は「野球部が甲子園に行けたか行けないかの結果よりも、甲子園に行くためにみんなが一丸となって取り組んだ、そのプロセスの方が大事だと思ってるの。」と言いました。これは、単に努力したことに価値があるということではなく、程高野球部が五回戦までコールド勝ちできる程の実力を身につけたことが成果である。と解釈出来ると思います。

 一方、みなみは『マネジメント』から「組織構造は組織の中の人間や組織単位の関心を努力ではなく成果に向けさせなければならない。成果こそ全ての活動の目的である。仕事のためではなく成果のために働き、過去ではなく未来のために働く能力と意欲を生み出さなければならない。」という言葉を引用した上で、マネージャとして野球部を甲子園に連れていって感動を与えることに責任がある。そして「その立場の人間が結果ではなくプロセスを大切にすると言うのは真摯さに欠けると思う。」と言っています。この言葉も正しいと思います。

 この二人の意見が対立しているように聞えるのは、そもそも甲子園出場は目標であり、それだけが唯一の成果ではないということを取り違えているからでしょう。例えば、売上 3000 万円がやっとという企業が、目標を 8000 万円*1に設定したとします。その企業が安定的に 5000 万円の売上を維持出来て、更に伸びが見込まれるようになったとしたら、それは成果といえるはずです。更に、みなみはプロセスという言葉を『努力』と置き換えて否定的に解釈していましたが、組織に正しいプロセスを規定することがマネジメントだとも考えられるます。そう考えると、二人の言っていることの本質は同じだといえるでしょう。

マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則

マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則

*1:お話しの中の予選の回数を一回 1000 万円と換算して考えてます。

第六話 みなみは戦略と現状について考えた。

 アニメ版『もしドラ』、回を重ねるごとにドラッカーの言葉の解釈に怪しいところが目立つようになってきたように思います。今回のお話しの中で『トップマネジメント』について、二階君が「一人じゃこなしきれない仕事を分担してチームでそれぞれの仕事をマネジメントしていくことさ。」と言っていましたが、これでは単なる役割分担と言っているように聞えます。『マネジメント』の中の「トップマネジメントは一人でなくチームによる仕事である」という言葉を、そのまんま言葉通りに解釈してしましたようです。もちろん『トップマネジメント』というのは組織や部門のトップが行なうマネジメントのことであり、それに対してドラッカーが「チームによる仕事である。」と言っているのは、組織や部門のトップ達がお互いを尊重しあってチームワークとして組織全体のマネジメントをする必要があるという意味です。

 しかし、今回のお話しでの、みなみの行動の中には、素晴らしいものもありました。それは、新入部員の面接による選別とその選別基準です。みなみは新入部員の志望動機を聞いて、程高野球部という組織のミッションや理念に合致した人材を選抜していました。これはとても大切なことです。『経営者に贈る5つの質問』の、第一の質問「われわれのミッションは何か?」の解説でドラッカーは「リーダーたる者は、組織のメンバー全員がミッションを理解し、信条とすることを確実にしなければならない。」といっています。これは、組織のミッションとその構成メンバー各々の信条が一致することが、組織運営に不可欠だということです。そして、新入部員に組織のミッションを理解してもらうよりも、元々信条が一致している人物を組織の一員にする方が、より簡単で、かつ強固な組織ができることは明らかです。

経営者に贈る5つの質問

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第五話 みなみは過去の高校野球を捨てた。

 いよいよ、程高野球部のイノベーションである「ノーバント・ノーボール作戦」の試合での実践です。原作では、この大学との試合は大差で負けたということしか書いてありません*1。試合の経過はアニメ版のオリジナルの内容だということです。しかし、せっかく試合のプロセスを見せるようにしたのに、そのプロセスの中で、なぜ程高の選手達が徐々にエラーを減らしてゆくことが出来たのかという部分が描かれていないのは残念です。選手達が明らかに成果をあげているのだから、そこには『フィードバック分析』が行なわれていた、といった形で描くことは出来たのではないでしょうか*2

 『フィードバック分析』もドラッカーの著書の中で繰り返されている、重要な考え方です。『明日を支配するもの』の中には「自らをマネジメントするうえで最も重要な手法が、フィードバック分析である。何かをすることに決めたならば、何を期待するかを書きとめておく。九か月後、一年後に、その期待と実際の結果を照合する。」とあります。個人の成長という目的に対してはこの位の長いスパンで評価する必要があるかもしれません。しかし、『フィードバック分析』の本質は、計画と結果を照合してその差がなぜ生まれたのかを見極めることにあります。このプロセスが行なわれていれば、一ヶ月でも一週間でも、『フィードバック分析』は機能します。そして、もう一つ重要なことは、このプロセスを繰り返すということです。繰り返しによって計画と結果の差を縮め、狙った通りの行動ができるようになるのです。

明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命

明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命

*1:原作ではむしろ、この大学と練習試合ができるようになった経緯の方が重要で、そこに程高野球部が組織として社会に貢献し、その結果として野球部員が成長出来たということが示されています。

*2:次回のお話しの中で、ふりかえりとして描かれるのかも知れませんけれど。

第四話 みなみはイノベーションに取り組んだ。

 今回のテーマは『イノベーション』。マーケティングと共に企業がもつ二つだけの基本機能であり、この二つだけが成果を生む。と、ドラッカーが言っている重要な言葉です。

 しかし、残念ながら、お話しの中での『イノベーション』の捉え方には問題があるといえるでしょう。みなみ達は『イノベーション』の「新しい価値」という面に拘わり過ぎて、加地監督の革新なアイデアに飛びついて、盲目的に推進しているように見えます。『イノベーション』にはもちろんアイデアも必要ですが、そのアイデアを「機会」と結び付けなければ成功しません。お話しの中で、みなみが「成果とは百発百中のことではない。百発百中は曲芸である。」という言葉を引用していましたが、一発必中もやはり曲芸なのだと思います。

 『イノベーションと起業家精神』では「イノベーションのためには、七種類の機会を調べなければならない。」として、予期せぬこと、ギャップ、ニーズ、産業の構造変化、人口の変化、認識の変化、新知識という七つの機会について述べられています。さらに「イノベーションを成功させる人たちは、リスクを求めて飛び出すよりも、時間をかけてキャッシュフローを調べる。リスク志向ではない。機会志向である。」とも書かれています。お話しの中の、みなみ達は明らかにリスク指向になってしまっています。

イノベーションと企業家精神 (ドラッカー名著集)

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第三話 みなみは人の強みを生かそうとした。

 「人の強みを生かすことが組織の目的であり、マネジメントの権限の基盤である。」

 ドラッカーの言葉の中で、私自身が最も共感して最も重要だと感じる言葉が『マネジメント』にある、この言葉です。

 第三話のタイトルを見ると、この点についてがテーマかと思ったのですが、実際のお話しを見ると、少しズレている感じがしました。確かに文乃の『強み』を生かしてはいましたけれど、組織として『強み』を組み合わせて『弱み』を打ち消すという形にはなっていませんでした。また、みなみが祐之助に対して「エラーをした経験」が、彼の『強み』だと言っていましたけれども、これは違うと思います。『強み』とは個人の資質であり、その個人が得意とするものであるはずです。また得意なものを持つということは、その裏返しとして、苦手なものも持っているはずです。「エラーをした経験」を語ることができるということは、確かに野球部という組織にとって有益なことかもしれませんが、それを個人の『強み』ととらえてしまうと、その個人の生まれ持った資質を見失なってしまうと思います。

 『強み』を生かして『弱み』を打ち消すという考え方については、第二話の「私とドラッカー」で、上田先生がおっしゃっていたことが、本質を判り易く表現していたと思います。

 「人は凸凹している存在である。あることについて秀でていて、あることについて秀でていない。」そして「みんな、その凸凹を無くすために一生懸命やる。」しかし「ドラッカーはそれが間違いだという。人間は凸凹である。それが人間の強みなんじゃないか。」そこで「凸凹の出っ張っている所だけを組み合わせれば、素晴らしいチームになる。」と、おっしゃっていました。まさにそれが、人を組織にする意味であり、そのような組織を作り上げることが『マネジメント』の役割なのだと思います。

 『明日を支配するもの』には、「できないことを並のレベルに引き上げるよりも、できることを超一流にするほうがやさしい。」とも書かれています。いわれて見れば、当たり前のことだと感じますが、忘れられていることが多いのではないでしょうか。

マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則

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明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命

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